2021.09.07

富士山で見られる高山植物 Part 2

富士山日記第100号(執筆者 山梨県富士山レンジャー 半田尚人)

ごあいさつ

はじめまして! 山梨県富士山レンジャーです。
私たち富士山レンジャーは、山梨県が2005年に設置した自然保護巡視員です。現在は7名で活動しており、富士北麓エリアにて「巡回・指導啓発」「教育・自然解説」「情報発信・交流」などの業務を行っています。環境省のレンジャー(国立公園管理官)やアクティブレンジャーと合同で巡視をしたりすることもあります。

富士山レンジャーの活動について、不定期ですが下記サイトでもご紹介をしています。ぜひそちらもご覧ください。

そして今回の記念すべき100号よりこの「富士山日記」に山梨県富士山レンジャーも参加させて頂くことになりました。環境省と共に富士山の自然の魅力、富士登山の知っておきたい情報などを発信していきたいと思います。どうぞ宜しくお願いします。

富士山五合目以上の植物

今年、富士登山をされた方、どうでしたか? 新型コロナ感染拡大の中で悩みながら登ったが神々しい御来光を見られた方、荒天でさんざんだった方、高山病にかかってしまった方、色々だと思います。時には「御来光は良かったけれど、登下山の途中は砂礫ばかりで全然自然が無くて単調だった」という声を耳にすることもあります。

でも本当は、そんなことはありません。開山期間中、富士山の五合目以上でも様々な動植物を見つけることが出来ます。

今回はそんな富士山の自然の一部を振り返ってご紹介しましょう。

フジアザミ(富士薊)

8月下旬 六合目登下山道分岐にて

六合目登下山道分岐付近に今年もフジアザミが咲きました。吉田ルートで最も標高の高い所に咲くフジアザミでしょう。今年も登山者が無事に帰るのを静かに待っていました。

ムラサキモメンヅル(紫木綿蔓)

7月下旬 吉田ルート 六~七合目登山道にて

紫色の花をつけ、根が木綿の繊維状であることが名前の由来。日当たりの良い乾いた砂礫地に見られます。山梨県では絶滅危惧ⅠB類(EN)に指定され、レッドデータに登録されています。

トモエシオガマ(巴塩竈)

8月下旬 吉田ルート 七合目トモエ館周辺にて

オリンピックの鉄棒でこんな名前の凄い技がありそうですね。不思議な花の形をしているでしょう。一つ一つの花は小さくて目立たなくても茎先にまとまって特徴的な花をつけることで、花粉を運ぶ虫たちに居場所をアピールする、ひねり技の生存戦略なのですね。

ミヤマハンショウヅル(深山半鐘蔓)

7月中旬 御中道にて

花が火の見やぐらの上などに取り付けられた半鐘に似ていることが名前の由来。

8月下旬 吉田ルート 七合目にて

でもひと月もするとすっかり姿が変わります。花弁が落ち、中から綿毛が360°に展開して、まるでチアガールのボンボンみたい。きっと安全登山の警鐘を鳴らしつつも、登山者に「ファイト!」とエールを送っているのでしょう。

フジハタザオ(富士旗竿)

7月中旬 吉田ルート 七合目鎌岩館周辺にて

可憐な白い花で登山者を応援しているフジハタザオ。富士山の固有種です。

8月下旬 吉田ルート 六~七合目登山道にて

この花も、花が終わり赤い実を付けると姿かたちがガラッと変わってしまい、元の花の姿が想像つかないくらい地味になります。変化する植物の姿を見守るのは、富士山レンジャーの楽しみの一つです。

イワツメクサ(岩爪草)

8月下旬 富士山頂三島岳周辺にて

本州中部の高山の礫地に多く分布する多年草です。実は花弁は5枚しかないのですが、花弁の真ん中が深く切れ込んでいるので10枚花弁があるように見えます。富士山の厳しい環境にも適応し、今では富士山頂でも見られるようになりました。

いかがでしたか。ここにご紹介したのはほんの一部で、他にもたくさんの植物が、富士山の過酷な環境の中で、頑張って花を咲かせていました。来年夏に富士登山に初チャレンジする方、リベンジする方は、ぜひ富士山の自然にも目を向けて歩いてみてください。富士山でも注意して探すと花々が結構あるものです。

でも、ここで一つお願いです。
富士山の花々に関心を持って頂き、写真を撮るのはOKですが、植物を採るのはNGです(自然公園法違反)。また、花の写真を撮るのに夢中になるあまり、ルートから外れたり、足元の植物を踏み荒らしたりしないようにしましょう。場所によっては、他の登山者の通行の妨げになる場合もあります。事故や危険を招くことがないよう、周りに気を配り、ゆとりをもって臨んでください。