2022.08.31

吉田ルート下山道トイレのおはなし

富士山日記第110号(執筆者 環境省 富士五湖管理官事務所 アクティブレンジャー 半田尚人)

吉田ルートの下山道には下江戸屋以降山小屋は無く、七合目の公衆トイレと六合目の仮設トイレが数少ない施設です。特に七合目トイレは長い下山道の末にやっと現れるため、多くの人が利用します。今回はこの七合目トイレにまつわる話をしましょう。

吉田ルート下山道七合目の公衆トイレ

1. バイオトイレのしくみ

今では富士山の五合目以上の公衆トイレ、山小屋のトイレは全て環境配慮型になっています。環境配慮型と言っても、電気焼却などで排泄物の水分を飛ばし灰にしてしまう燃焼式と微生物の力で分解処理する自己完結型のバイオ式とがあり、バイオ式の中でも微生物の増殖に最適な菌床を作るべく、カキ殻やスギチップ、おがくずなど様々なタイプが存在し、富士山の各山小屋・公衆トイレでも様々なタイプのトイレが存在します。
今回ご紹介する 吉田ルート下山道七合目トイレは、そば殻を菌床として微生物を増やし、分解処理するタイプのバイオトイレです。

吉田ルート下山道七合目のトイレのしくみ

トイレの構造はざっくり書くと図の通りです。
最初にウンチとオシッコに物理的に分離され、ウンチは処理槽に、オシッコは尿タンクに溜ります。ウンチについては90%以上は水分のため、まず菌床(そば殻)に水分を吸わせて蒸発し易い環境にします。その上で、ヒーターで温度管理をしながら、槽内のスクリューで撹拌し、酸素を取り込みます。適切な温度と十分な空気を保つことによって、好気性バクテリアの活動を活発化させていきます。
摂氏50℃を超える辺りから徐々に水分が蒸発し、最終的に排せつ物の量は元の10%以下になります。こうして分解処理されたし尿は、現在は菌床交換などのタイミングで麓に下ろされ、処分されます。

皆さんはバイオトイレを使ったことはあっても、トイレの下がどうなっているかを見たことのある人は少ないんじゃないでしょうか? ちょっと見てみましょう。

便座を上げると実はこうなっています。

その前に、まず便器から。便座を上げるとオシッコの入る穴とウンチが落ちる穴が分かれていることが分かります。入口の段階から分けているのですね。それから、これは山のトイレの常識なのですが、紙は自然界ではなかなか分解しづらく、またティッシュなどものによっては分解しないものもあるため、使用済のトイレットペーパーは便器の中に落とすのではなく、脇のボックスに入れ備え付けの棒で奥に押し込んで下さい。(紙は纏めて焼却処分されます)

次に機械室に入って階段を下ると大きな4連の黄色いタンクが並んでいます。尿タンクです。さっきのオシッコの穴と男子用小便器から来たオシッコがここに溜まります。

尿タンク
バイオトイレの処理槽の中。ぜんぜん臭くない。

そしてこちらがバイオトイレの処理槽の中。らせん状の羽が回転してそば殻の菌床を攪拌しています。処理槽に落ちたウンチはバクテリアがしっかりと分解してくれるので、土のようになったものがそこにあるだけ。全然臭くありません。バクテリアの分解パワー、本当に感謝、感謝です。それともう一つ、このバイオトイレの維持管理のために、日々清掃をしてくれるスタッフ、定期的に処理機のメンテナンスをしてくれる業者の方々にも感謝です。

 さて、ここまで仕組みをご説明したのは、皆さんにお願いがあるからです。

・トイレにゴミや異物を捨てないで下さい。

処理槽に異物が入ると機械が壊れてしまい、その修理をするにも部品を調達したり運搬したり、簡単なものではありません。

・オシッコは小便器で。個室でするなら立ち小便禁止!! 座ってして!

これは男子諸君にお願いしたい事。吉田ルート下山道トイレは建物の構造上、男子の大と小が別々の部屋になっていて入口が別です。オシッコだけなら小便用のトイレを使って欲しいのです。個室で立ち小便をするとウンチの方の処理槽の方に入ってしまうので、処理槽の水分量が多くなりすぎて、バクテリアによる分解が進まなくなってしまうからです。

男子トイレの入口。男子トイレは大と小で別々の部屋になっている。
 ・トイレチップにご協力下さい

しくみを知るとバイオトイレの維持管理にはメンテナンスの人件費や発電機の燃料代、菌床となるそば殻などの資材等々、お金がどうしても掛かってしまう事はご理解頂けると思います。富士山の環境配慮型トイレは方式が様々ですが、どの方式でも維持費はどうしても掛かります。富士山の保全協力金はバイオトイレの日々の維持管理には使われません。トイレチップは貴重な財源です。どうかご理解・ご協力を宜敷願いします。

またこちらにも詳しく書いています。ぜひご一読を。

2. 女子トイレの行列改善対策

さて、ここからはちょっとした改善事例のご紹介。

女子トイレの待ち行列の様子

長く伸びたトイレ待ちの行列。特に女子トイレは大変です。純粋にトイレがフル稼働して、それでも混んでいるなら仕方ないのですが、奥の方のトイレが空いているにも関わらず、空いていることが分かりにくくて無駄に待ってしまうというケースも度々起きています。

女子トイレ。奥の個室が空いているか分かりにくい。

電気仕掛けで「使用中」などの表示灯を設置する方法もありますが、お金を掛けることができません。そこでネットで見つけたアイデアを参考にこんな工夫をしてみました。

個室の扉が閉ると赤い×が青い○を隠して使用中に変わるしくみ

100円ショップで5枚100円のボール紙を購入し、1枚のA4ボール紙から「○(Available)」「×(Occupied)」1組の札を切り出して写真のように設置。個室の扉が開いていれば「○」が見えていて、扉が閉ると「×」で覆い隠されるような仕掛けです。
(奥の3部屋はその後の工夫で表示を少し大きくしました)

設置後。空き状況が分かりやすくなり、行列解消の一助となったかな。

現場では概ね好評のようで、行列解消に一役買いそうです。
お金は掛けられなくても工夫次第で改善ができる良い例となりました。

いかがでしたか? トイレの話だけでこんなに長々となってしまいましたが、より多くの人たちに、環境配慮型のトイレについて深く知ってもらいたい気持ちを込めて書きました。環境保全の取組みへのご理解・ご協力をこれからも宜しくお願いします!

以上