2023.07.14

夏到来! 安全で楽しい富士登山を!!
(1)計画・アプローチ編

富士山日記第117号(執筆者 環境省 富士五湖管理官事務所 アクティブレンジャー 半田尚人)

山梨県側は7/1から、静岡県側は7/10から富士山が開山し、いよいよ夏山シーズン到来です。
アフターコロナや円安、世界文化遺産登録10周年などを背景にインバウンドも含めた観光交流の回復で、国内外から多くの登山者が富士山に訪れる見込みです。
特別な登攀(とうはん)技術が無くても登れる富士山ですが、日本一の標高であり、麓の方ではうだる暑さでも山頂付近では肌寒く、さらに夜間は冷え込みます。また、山の天気は変わりやすく、登り始めは良く晴れた天気でも、午後には雷雨になることもしはしばあります。ぜひしっかりと準備をして無理のない計画で、安全に、そしてマナーを守って富士登山を楽しんで頂けたらと思います。

あらためて、富士登山で注意したい幾つかの点をご紹介したいと思います。まずは計画・アプローチ編から。

(1) 計画・アプローチ編

1. 山小屋の予約はお早めに

日程計画が立ったら、早目にした方が良いのが、山小屋の予約。
今年は冒頭でも述べている通り、国内外多くの登山者で見込まれています。一方山小屋は、コロナ以降1日の収容客数を絞って対応しているので、山小屋の予約もすぐにいっぱいになります。弾丸登山の理由も「山小屋の予約が結局取れなかったから」というケースが少なくありません。早めに山小屋を予約し、どこもいっぱいだったら弾丸登山を強行するのではなく、別の日程で調整するゆとりを持ちましょう。また登山ルートを変更してみるというのも一つの選択肢です。但しルート毎で歩く距離も山小屋の数も異なります。自分の体力も鑑みて十分検討して下さい。

2. マイカー規制について

御殿場口を除く3つの登山口では、五合目にアクセスする道路が一部の期間、規制対象とならない車両以外は通行できません。麓の各駐車場(一部有料)に停めてシャトルバス(有料)等をご利用下さい。渋滞緩和と排気ガス抑制のため、ご理解とご協力をお願いします。詳しくはこちらでご確認下さい。

マイカー規制前の富士スバルライン(吉田口)の様子

なお、マイカー規制対象期間外の週末は、五合目駐車場が混み合い、道路の渋滞も予想されます。ゆとりを持って計画を立てて下さい。

3. STOP弾丸登山!

富士山頂。無理が祟ってせっかくの御来光を見る元気が無い弾丸登山者

『弾丸登山』とは、五合目を夜間に出発し、山小屋に泊まらず夜通しで一気に富士山頂を目指す登山形態です。十分な休息を取らずに高峰を目指す為、体調を崩す登山者が後を絶ちません。疲労している状態での夜間登山は、事故を起こす危険性も高まります。
ぜひ安全な登山行程を計画するようにお願いします。


4. 登山者数の平準化へのご理解とご協力を

御来光渋滞の列(吉田・須走ルート九合目にて)

突然ですが、クイズです。コロナ禍になる前の2019年8月11日(日)、この日、富士山4ルートの八合目以上の一日の合計登山者数が、その年の最高値を記録しました。さて、その記録とは?

a. 4千人  b. 6千人  c. 8千人

aの4千人でもたった一日の登山者数、しかも八合目以上まで行っている人数と考えたらかなりな数ですが、正解は…

c. 8千人(約8,700人) です!
しかも、このうち5千人が吉田ルートの登山者で、さらにその大半が御来光を見るのに登る時間帯に集中しています。

今年は外国からの受入れも本格化し、円安の影響もあってコロナ禍以前と同等かあるいはそれ以上の登山客が見込まれています。合わせて日本国内でも長期のコロナ禍による自粛ムードから解放され、世界文化遺産登録10周年でもある富士山への登山は、週末のアクティビティとして注目されています。そうなると、曜日の集中の影響は大きくなると予想されます。

グラフは2018~2021年、閉山だった2020年を除く3ヶ年の開山期の曜日別の一日辺りの登山者数の平均(*1)です。これを見るとどのルートも週末に登山者が集中しているのが一目瞭然です。(*1…欠測日を除いて算出)

富士登山の混雑予想カレンダーなども出ていますので、参考にして渋滞・集中を避けた快適な山旅を楽しんで下さい。

5. 自分の体力を考えて1日の行動時間は余裕をもって

三方分山のビューポイントより

富士山は、「よし今度の夏は富士山に登ろう!」と決心したその日から既に山登りが始まっていると言われます。それは体力づくりです。体力づくりと言っても、マッチョで筋肉隆々になることを目指すわけではありません。大事なのは心肺機能を高めることと持久力をつけることです。歩くことは、とても良いトレーニングです。帰りの電車で一駅手前で下りて歩いて帰ってみたり、週末ごとに日帰りあるいは泊まりがけで登山を楽しんだりして、足腰を鍛え、心肺機能を高めることを積み重ねて行くと、富士山に登るとき、ずっと足取りが軽くなります。ぜひ頑張ってみて下さい。

但し、体力づくりをすることと山行計画段階で自分の体力を過信することは別です。昔山登りの経験があって暫く山から離れていた人が、「久々に古い山友と富士山に登ろうと思って…」と富士山に登る方をよく見掛けます。最近のご自身の体力をよく見直して時間に余裕のある計画を立てているのなら良いのですが、中には昔の感覚で「これくらい行ける」と過信して無理な計画で行こうとする方もいます。
ぜひ今の自分の体力をよく見直して、無理のない計画を立てましょう。少なくとも計画段階では、夕方4時前には目的地の山小屋に着いているのが望ましいです。

6. 登山計画の提出を

富士山は特別な登攀技術が無くても登れるし、5合目は観光客が大勢いるので、何となく「登山」に対する意識レベルが下がりがちで、登山届を出さずに登る人も少なくないですが、富士山は日本一の高山である事を忘れてはいけません。
登山届を紙で作成し、各登山口の5合目の警察詰所ないしは登山届BOXに提出するか、Compassなどの登山計画作成・提出アプリを使って提出するようにしましょう。Compass のメリットは標準的なコースタイムを元に何時に何合目に着けそうか、シミュレーションしながら計画を立ててメンバーや緊急連絡先の家族に計画内容を共有することができる点、設定によって下山予定時刻を過ぎても下山入力が無い場合に、緊急連絡先の家族や警察に自動的に通知を飛ばすしくみがあることなどです。そして、何よりも計画を入力しようとするとおのずと詳細な部分にも注意が行き届き、計画の不備や忘れ物などの大事な点に気付きやすくなるということです。

必ずしもCompass を利用する必要はありませんが、紙による登山届を提出する場合、コピーを残して、家にいる家族に誰とどこの登山口から登って、何という山小屋に泊まって、どのルートを使って下山するのかといった計画の概略をきちんと伝えておくことが大切です。

<どうしても無理! という人は…>
あくまでもCompass などを利用して事前に腰を落ち着けて登山届を作成することを推奨はしているのですが、富士山には山の初心者の方が地図すら用意せずに富士登山に臨む人が本当に多く、その結果、道迷いなどに陥ってしまうケースが非常に多いのが実情です。ルート上で自分の現在地が分かる『富士山アプリ』というスマホアプリを活用しましょう。
詳しくは下記をご覧下さい。 

7. 天気予報をしっかりチェック

出発前日には必ず天気予報をチェックし、危ないと判断したら、山行を中止する勇気を持ちましょう。特に旅行日程の中に登山を組み込んでいる人や仕事の関係で他の休みが取れない人などで天気が悪くても強行してしまう人がいますが、富士山は5合目以上では基本的に吹きさらしで逃げ場が無くとても危険です。
天候を客観的に見極めて判断しましょう。
また、今どきは、天気予報も麓の天気ではなく山の詳しい天気が調べられるサイトがあったり、雨雲レーダーの情報をリアルタイムでスマホで見られるアプリがあったりするので、事前にそのようなツールをチェックしておくと良いかも知れません。

次回、装備・服装編をお送りします。