2024.08.09

夏本番! 安全で楽しい富士登山を!!
(5)雷雨待避編

富士山日記第122号(執筆者 環境省 富士五湖管理官事務所 アクティブレンジャー 半田尚人)

8月に入り本格的な夏に突入していますが、富士登山を予定している皆さんは準備の方は万全でしょうか?  昨年、富士登山の準備に関する「富士山日記」を4回に分けて書いています。今年、登山規制が新たに加わっていますが、山の準備に関して大事なポイントなどは変わらないので、ぜひ、そちらも参考にしてみて下さい。
(ヘッダー部の「今日の富士山」→「富士山日記」で過去掲載分のINDEXを確認できます。)

その富士山日記 No.120「(4)山行での注意点・緊急対応編 」の中でも突然の雷雨に対する対応について書いていますが、改めて雷雨の待避に特化してポイントなどを整理してみました。8月初旬から下旬にかけて富士登山を計画している方はぜひご一読下さい。
(抜粋版としてお知らせにも掲載しており、内容が一部重複します。ご容赦下さい)

突然の雷雨にご注意ください

1. 落雷による人身事故が発生しています

今月5日、吉田・須走下山道9合目付近で落雷が発生。この衝撃で近くにいた下山中の家族3人が転倒し、頭や顔に軽いけがをしたほか、手足にしびれが出ました。

8月に入り、真夏の天候になると富士山に限らず夏山では雷によるリスクが高まります。昨年も富士山では複数の落雷事案があり、人身事故も発生しています。昨年の事案では、夜間に吉田ルート八合目付近で落雷が発生し、岩場で登山道脇の鎖を掴んでいた2名の登山者が感電し失神。うち1名がすぐに意識を取り戻し、近くの山小屋に救助を求めに駆け込みますが、雷はまだ近くで鳴り響いていて、容易に助けに向かうことができません。雷がやんでから、もう一人の登山者も救い出すことができました。幸い、2人とも軽傷で無事に下山しました。
落雷だけでなく、突然のゲリラ豪雨にも注意が必要です。真夏の気候では、太陽熱で温められた空気が上昇気流で積乱雲を形成し、午後に突然の雷雨を引き起こすことがよくあります。夏山の常識として「午前中早めに行動せよ」と言われますが、午後の天候の急変のリスクを避けるためのものです。富士山でも同じ。午後の天候の急変に注意し、雨具などもすぐに取り出せるように備えておくことが必要です。

2. 雨雲レーダーの情報を察知しよう

富士登山オフィシャルサイトでは、開山期間中、トップページに雨雲レーダーや雷ナウキャストの情報を掲載しており、直近の雷雨リスクを確認することができます。また、最近ではスマホのアプリでも雨雲レーダーの情報をリアルタイムで確認できるものもあります。上手に活用して、発雷リスクを把握するようにしましょう。

3. 突然の雷雨に見舞われてしまったら

① 近くに山小屋がある場合
登山中、もしも突然、雷を伴う激しい雷雨に見舞われたら、山小屋など近くの施設に避難して下さい。但し、山小屋は予約のある宿泊客の対応で手いっぱいのため、「単なる雨宿り」目的では入ることはできません。あくまで命の危険を伴う雷雨の場合と理解しましょう。
また、山小屋のトイレなどに立て籠もって不法に占拠するのもNGです。自分の予約した山小屋まであと僅かで、本格的な雷雨まで余裕がありそうなら、とにかく目的の宿まで急いで辿り付くか、日帰り登山であれば、安全な場所まで急いで下山するのが賢明です。

➁ 下山道などの場合
近くに山小屋の多い登山道であれば、どうにか避難できますが、山小屋の無い下山道ではどうでしょう? 下山道でも連絡道があって山小屋のある登山道側に移れる場所もあります。また、吉田ルート下山道であれば、標高2,900m付近に緊急避難用の石室があり、七合目には公衆トイレがあります。七合目以下であれば、洞門(シェルター)に逃げ込んで下さい。

吉田ルート下山道 緊急避難石室(七合目)
吉田ルート下山道 洞門(シェルター)(六合目)

③ どこへの避難も困難な場合
近くに建物や施設が無く、樹林帯にいる場合、木への落雷による側撃雷の危険性が高いです。周囲の木や枝葉から4m離れて身をかがめて雷をやり過ごして下さい。
岩場であれば、抜けきるか戻るかして岩場からは離れて下さい。その上で、登山道(下山道)上でも谷側ではなく山側(山壁には触れないように)につま先立ちで姿勢低くしゃがみ込み、手で耳を塞いで、頭を低くし雷雨の通過を待ちましょう。集団で歩いている時は一人一人の間隔を2m以上あけるようにして下さい。この時、ストックや金剛杖など棒状の物を持っていると、それが避雷針になりかねません。そっと横にして地面に置き、体からは離して下さい。(遠くに投げ捨てる必要はありません) ザックなどに取付けている場合には、ザックごと下ろして地面に寝かせて下さい。(1)
1 ストックや金剛杖などを放置された場合、残念ですが、後日持ち主を探し出してお届けするということは出来ません。他のゴミと同じように扱われ処分されてしまうことを予めご承知置き下さい。

雨はその後も降り続けることはありますが、雷はしばらく待てば収まります。状況を見極めて、雷が収まったら安全な場所への避難を最優先に行動して下さい。

4. 山小屋の中でも注意が必要です

雷の際に建物に避難することが最優先ですが、山小屋の中に居ても注意が必要です。壁や鉄骨、水道管や足場などに使われている金属パイプなどは電気の通り道となる可能性があります。雷鳴が響いている間はこれらのものに触れない方が無難です。
また、スマホやデジカメなどコンセントを借りて充電している場合も、過電流が流れて機器を破損する虞があるので、雷がやむまでは充電は控えた方が良いです。
さらに、山小屋に設置してある発電機に落雷して、一晩、停電状態で過ごさなければならないという場合もあります。とにかく山小屋の方々の指示に従って、落ち着いて行動をして下さい。

参考外部リンク

問い合わせ先

環境省富士五湖管理官事務所   電話:0555-72-0353
環境省沼津管理官事務所     電話:055-931-3261