2024.09.10

【富士山がある風景100選】
 御中道・御庭・奥庭を歩いてみませんか

富士山日記第123号(執筆者 環境省 富士五湖管理官事務所 アクティブレンジャー 半田尚人)

こんにちは。富士五湖管理官事務所の半田です。

今年、みなさんは富士山を楽しまれましたか? 登山規制など新たな取組みが始まり、注目を集める富士山ですが、登山が苦手でも五合目くらいなら一度行ってみたいと、観光客も大勢 富士スバルライン五合目まで訪れました。ただ五合目に来ても、記念写真を撮って 神社をお詣りして お土産を買ったら、すぐに帰ってしまう。そんな方々もたくさん見掛けます。それではもったいない!  せっかく富士山の中腹まで来たのですから、ぜひ富士山の自然にも触れて頂きたいです。

そこで、今回、ご紹介したいのは、富士山(山梨県側)の御中道・御庭・奥庭です。

特に、御庭・奥庭は「富士山がある風景100」にも選出されていて、これから黄葉の時期を迎えるにあたって、ぜひオススメしたいスポットでもあります。

水平に歩いて散策できる御中道

富士スバルライン五合目から御中道を散策するには、雲上閣横の路線バスのバス乗り場横の石段入口から登ります。御中道は基本的に水平に歩いて行ける散策道で、一番奥のあずま屋まで片道 約2.5km、ゆっくり歩いて1時間弱です。時間制約のある方は、途中で引き返すという方法も可能です。

富士スバルライン五合目からの入口
御中道・御庭・奥庭 コースマップ
クリックすると拡大表示します。

また、元々路線バスを使って下山予定で時間に余裕がある方なら、御中道から御庭を下ると、およそ1時間半。奥庭駐車場から路線バスに乗ってそのまま下山するという方法もありますし、合わせて奥庭も散策
して食事なども取って帰る(約半日)ということも可能です。また、五合目起点以外にも奥庭駐車場を起点とした散策も可能です。ご自身の都合に合わせてプランを考えてみて下さい。
そして、五合目総合管理センターが開設している期間であれば、自然解説員の方の話を聞きながら一緒に御中道を歩くこともできます。(無料) ぜひご検討下さい。

自然の魅力が詰まった御中道

御中道では時期ごとで違った自然の表情を楽しむことができます。夏の初めの頃であれば、ピンク色の可愛らしい花を鈴なりにつけたベニバナイチヤクソウやハクサンシャクナゲの開花などが目を惹きます。

ベニバナイチヤクソウ
(撮影: 7月中旬)
ハクサンシャクナゲにとまるアサギマダラ
(撮影: 8月初旬)

また、耳をすませば、野鳥の美しい囀りに心が癒やされます。ジュリジュリジュリとスズムシのような囀りを響かせるのは、メボソムシクイです。甲高い美声で「ルリビタキダヨ」とも聞こえる鳴き声はルリビタキです。彼らはオス同士で縄張りを主張するために樹木のてっぺんで囀ることが多いので、見つけやすいかも知れません。他にもビンズイやヒガラ、ウソやホシガラス、運が良ければキクイタダキなどにも出逢えるかも知れません。

メボソムシクイ
(撮影: 8月中旬)
ルリビタキ
(撮影: 8月中旬)

御中道からの素晴らしい眺め

しばらく樹林帯を進むと見晴らしの良い、砂礫帯に出ます。ここからは手前に富士五湖や御坂山塊、奥には南アルプスの峰々が望め、空気の澄んだ時には、遠く北アルプスまで見えることもあります。
また、振り返ると圧倒的な存在感で富士山の頂(いただき)が聳えています。

富士山頂を仰ぐ
(撮影:6月中旬)
南アルプス遠望
(撮影: 6月中旬)

ここで、ちょっと注意。砂礫帯では、御中道の上下に「導流堤(どうりゅうてい)」と呼ばれる堰堤のような人工物があります。一見すると、お立ち台のようで、台の上によじ登って写真を撮ったらインスタ映えしそうな感じに思うかも知れませんが、これは土砂災害から人命や道路を守るために設置された重要な施設で登って遊ぶ場所ではありません。決して近寄ったり、よじ登ったりしないで下さい。

コケモモのひみつ

御中道を代表する植物で、ハクサンシャクナゲに並んで人気なのがコケモモです。愛らしい桜色の小さな花を一面に咲かせ、真ん丸く小さな赤い実をつける様は、多くの来訪者を癒やしてくれます。
ところで、この植物、地面から数センチほどの高さにしか育たないし、見た目の可愛さから草花と思っている人がいるかも知れませんが、実はコケモモは常緑広葉樹、すなわち樹木なのです。

コケモモの花
(撮影:7月中旬)
コケモモの実
(撮影: 9月初旬)

樹木だと、一つ気になることがあります。それは越冬です。富士山の冬は夏とは違って雪と氷に閉ざされ、物凄い強風が吹き荒れる別世界になります。どうやって厳しい冬を乗り越えるのでしょう? 御中道には広葉樹として他にダケカンバやハクサンシャクナゲがあります。落葉広葉樹であるダケカンバは葉を落として消費エネルギーを最小にして冬を乗り越えます。コケモモと同じ常緑広葉樹のハクサンシャクナゲは葉を丸めて折り畳み、雪や風によるダメージを最小限にして耐えます。そしてコケモモはと言うと、低木であることを最大限に活かし、雪にすっぽり覆われることによって外気の厳しさから身を守っているのです。こうやって見てみると同じ御中道の中でも、それぞれ生存戦略が違っていて面白いですね。

ダケカンバの小径を行く

特に私が「この風景はいかにも御中道らしくて素敵だな」と来るたびに思うのは、ダケカンバの森の中を石畳の道が通っている情景です。春・夏・秋・冬(※1)、いつ通っても素敵なのですが、特に魅力的と感じるのは、黄葉の秋の時季です。葉が黄色く色づいたダケカンバの中をゆっくり歩くのは、とても心が満たされる贅沢な時間です。
(※1 雪や氷で足元が滑りやすくなる11月頃から5月頃までは安全のため御中道・御庭は冬季閉鎖となります。ご注意下さい。)

ダケカンバの小径
(撮影: 9月末)

あずま屋にて

富士スバルライン五合目より1時間ほどであずま屋に到着します。天気が良ければ、富士山の頂きや富士山北西部に連なる側火山の火口列などを眺めながら、ゆっくり休憩することができます。

あずま屋で休憩
(撮影: 6月下旬)

この先で御中道は通行止めとなり、富士スバルラインに下りる”御庭”と呼ばれる遊歩道が2本に分かれます。奥の方がシラビソなどの樹林の中を抜けて奥庭駐車場に下るコース、手前の方が側火山の火口列に沿って富士スバルラインの洞門方面に下るコースです。洞門側のコースで下りても歩いて数分で奥庭駐車場に行くことができます。奥庭駐車場は公衆トイレも完備されています。

奥庭から展望のご褒美

時間が許せば、ぜひ奥庭駐車場から坂道を10分ほど下った先にある奥庭にもお立ち寄り下さい。奥庭荘で食事を摂ることもできますし、奥庭は20分ほどで周回できる散策道で、富士山から少し離れているので、晴れていれば、綺麗な富士山の絶景写真が収められる所として、「富士山がある風景100選」にも選ばれています。特にカラマツなどが黄色く色付く秋の富士山は観る人の心を奪います。

奥庭から眺める富士山
(撮影: 6月中旬)

お知らせ

どうでしたか? 9月10日で富士山が閉山となると、夏の賑わいは無くなりますが、五合目ではまだまだ秋の富士山を楽しむことができます。今年は富士山ボランティアセンターによるエコトレッキングや環境省による「山の日」イベントでの御中道ハイキングなどの企画もあります。ぜひ検討してみてはいかがですか?

最後にお願いがあります。
富士山の自然に関心を持って頂き、写真を撮るのはOKですが、植物を採ったり、いきものを獲ったりするのはNGです(自然公園法違反)。また、写真を撮るのに夢中になるあまり、ルートから外れたり、足元の植物を踏み荒らしたりしないようにしましょう。場所によっては、他の利用者の通行の妨げになる場合もあります。事故や危険を招くことがないよう、周りに気を配り、ゆとりをもって臨んでください。



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富士山がある風景100"とは+++++

富士箱根伊豆国立公園指定80周年記念事業の一環として、国立公園内と周辺地域の代表的な富士山の展望地を"富士山がある風景100"として選定しました。
その他の選定地などの情報につきましては環境省関東地方環境事務所のページをご覧下さい。