夏到来! 安全で楽しい富士登山を!!
(2)装備・服装編
富士山日記第118号(執筆者 環境省 富士五湖管理官事務所 アクティブレンジャー 半田尚人)
(2) 装備・服装編
1. 服装 「夏の富士山、暑いの?寒いの?」
一般的に標高100m上がると気温は0.6℃下がると言われています。そのため、平地(海抜0m)で35℃の猛暑であっても七合目(標高2,700m)辺りでは19℃、山頂では12℃と11月の東京の平均気温並みです。また朝晩は冷え込むのでもっと寒くなります。山頂の最低気温が5℃以下になることはよくあり、7月上旬や8月末以降だと氷点下になることもあります。
さらに風による体感温度の低下も無視できません。厳密にはリンケの体感温度の数式というものがあり少々複雑ですが、一般的には風速1m/sで体感温度が1℃下がると言われています。
ここ数日の猛暑からするとなかなか想像できないかも知れませんが、寒くなる日、寒くなる時間帯もあるということは十分認識して臨む必要があります。
では、五合目の登り口辺りでも避暑地のような涼しさがあるかと言うとそうでもなく、連日の猛暑で脱水症状や熱中症にかかってしまう人もいます。またそれは五合目辺りに限ったことではなく、山頂で服を着込みすぎてそのまま下山した人の中でも見受けられます。
従って、暑さ寒さに臨機応変に対応できる服装の準備が必要です。具体的な例としては、吸湿速乾性のアンダーウェア + 長袖シャツ + フリース + 登山用のレインジャケット&パンツ のように、暑さ寒さに対応できる重ね着や組合せをすると良いでしょう。
2. 日焼け・紫外線対策
紫外線量は標高が1,000m高くなる毎に10~20%増します。富士山六合目以上には森林が無く、晴れていれば陽射しを直接浴びることになります。長時間日焼けをすると肌は真っ赤になり、火傷のように痛くなります。たまに上半身裸でザックを背負っている登山者を見掛けますが、肩を日焼けするとザックが背負えなくなり、後で後悔することになるので、服装はよく考えましょう。
また、日焼け以上に気に掛けて欲しいのが、帽子とサングラスです。特に富士山では、日中登っている間、陽射しを背後から浴びる事になるので、後頭部を保護するようにした方が良いです。帽子は風で飛ばされないように流れ止めを付けましょう。サングラスは黒いかどうかではなく、UVカットの表示を確認し、隙間から光の入らないスポーツタイプがお奨めです。
3. 雨具の用意は確実に!
夏山の天気は変わり易く、朝の登り始めが良い天気でも、午後には積乱雲に覆われて突然の雷雨に見舞われるという事も良くあります。雨具は必ず準備すべきものですが、時折「折畳み傘を持っているから大丈夫」と言う人がいます。山での傘は強風で役に立たないばかりでなく、飛ばされると他の人への凶器となるのでNGです。レインウェアを準備しましょう。また山でよく出会うのが、簡易な雨合羽やポンチョタイプのもので乗り切ろうとする人です。山の経験が少ない人に多く、「たった1回の登山のためにそんな高いレインウェアなんか用意していられない」と安全指導員の人たちの言葉に耳を貸さずに、強引に突破して行く人が後を絶ちませんが、高山での雨は吹き上げるように横からも下からも来るので、セパレートタイプの山用の雨具を準備することを強く奨めます。一度限りの登山で購入はちょっと、という方は麓の山用品のレンタルショップなどで借りるという方法もあります。(レンタルに関しては各自でご確認下さい) いずれにせよ、きちんとした雨具を用意して臨みましょう。
なお、雨具は風よけにもなるので、すぐに取り出せる所にパッキングしておきましょう。
4. 吸湿速乾性のアンダーウェア
下着はとても重要です。歩いて汗を沢山かきますが、下着が濡れて乾かないと、夜間や雨風で冷え込んだ際に急激に体温を奪い、酷い場合には低体温症の原因にもなります。綿100%のものは安価で汗もよく吸ってくれますが、乾きにくいので、ポリエステルなど吸湿速乾性の高い素材のものがお奨めです。
また、山小屋は非常に混み合うので、下着を交換するのを諦める人もいますが、山小屋に到着したら早めに交換して汗もきちんと拭くことが大切です。濡れたままの状態にならないようにしましょう。
5. 登山靴
運動靴でも登山は可能ですが、バランスを崩すと足首を痛めるので、踝(くるぶし)まで隠れるハイカットのトレッキングシューズがお奨めです。ただ新品の靴でいきなり登山に臨むと足に靴が馴染んでいなくて酷い靴擦れに見舞われるということもあります。新しく靴を新調した場合には、必ず「履き慣らし」をしましょう。
なお、暫く履いていない靴で登ったら、靴底が剥がれたというケースもあります。例え使用していない靴であっても、ソールの接着剤の粘着性が経年劣化で低下しています。必ず事前にチェックしましょう。
山で万が一ソールが剥がれてしまった場合を考慮してグループで結束バンド数本を用意しておくと、いざという時に応急措置が可能です。既に剥がれ掛かっているなら登山前に用品店に修理に出すか、新しく買換えるべきですが、万が一の備えとして用意しておくと良いです。
6. ヘッドライト
夜、小屋で過ごす時、また御来光登山で日の出前に行動する時、各自のライトが必要です。その際、ライトは必ずヘッドライトを用意し、両手がフリーになるようにして下さい。手持ちの懐中電灯だと、岩場などで両手が使えなくなるし、落としてしまう危険もあります。
「新しく買う」という方は、LEDライトがお奨めです。電球タイプより明るくて消費電力が少なく、玉切れの心配もありません。また赤色灯付きのタイプだと、眩しさを抑えられるので、小屋泊まりの時に他の人たちへの配慮ができるので、ベターです。
なお、たまにですが、「本体だけを持って来て電池を入れて来るのを忘れた!」という人がいるので、替えの予備電池も必ず準備し、自宅の準備段階で点灯チェックをしておきましょう。
また電池に関しても、充電タイプの電池を使う人もいますが、充電タイプの電池は充電を繰り返すと段々と充電できる容量(電圧)が落ちていき、フル充電して持って来たはずなのに朝まで持たなかったというケースもあります。ご注意下さい。
7. 水
富士山には沢が無く、水は貴重です。一方で脱水症状や高山病の対策として水分補給は不可欠です。一人当たり1.5~2ℓは準備して臨みましょう。吉田ルートの場合、登りは山小屋でも水の購入が可能ですが、下山道には山小屋が無いので、山頂を出発する前に必ず下山に必要な水を確保するようにして下さい。
8. ヘルメットについて
富士山は活火山であり、噴火のリスクを無視することは出来ません。噴火警戒レベルが引き上げられ、直ちに下山するという事態を想定しなければなりません。
特に吉田ルートでは、他の登山道よりも大勢の登山者がおり、これらの人が一斉に下山を余儀なくされます。登りルートを下りれば岩場ですし、下山専用路は砂利道で落石や転倒の危険が高いです。噴石も勿論危険ですが、こちらの方がより現実的に怖い話です。
また、噴火に関係なく、登下山道や御鉢巡りのルート等、落石の危険があるので、ヘルメットを着用するようにしましょう。過去には落石による大けがや死亡事故も起きています。吉田ルートの場合、六合目安全指導センターにて2千円のデポジットを支払えばヘルメットを借りられます。富士宮ルートでも無料貸出を受けられます。ぜひご検討下さい。
9. 防塵マスク、スパッツ
意外と大変なのが下りです。大勢が歩くので砂埃が舞いますし、靴に小石が入ったりしますので、防塵マスクと足回りのスパッツがあると安心です。マスクは万が一の噴火による火山灰対策の為にも有用です。
10. モバイルバッテリー
携帯・スマホやデジカメなど、今や登山にも電子機器が欠かせません。この時に心配なのが電池切れです。コロナ禍に伴う山小屋の改修で各山小屋の充電環境が改善されたとは言え、山小屋で確実に充電できるかは、各山小屋のポームページ等で事前に確認しておいた方が良いでしょう。充電環境に不安がある場合、緊急で外部と連絡を取りたい時などの為に予備電池やモバイルバッテリーがあると心強いです。
但し、モバイルバッテリーは注意が必要です。持ち運びや充電の際には、熱がこもらないように注意し、雨やペットボトルの水滴でショートしないようにし、衝撃も当たらないように注意する事が必要です。
またここに挙げた物以外でも「登山に必要な装備」で詳しく紹介しています。ぜひそちらもご一読下さい。
次回、ルール&マナー・緊急対応編をお送りします。