この夏、富士山で出逢った自然
富士山日記第124号(執筆者 環境省 富士五湖管理官事務所 アクティブレンジャー 半田尚人)
こんにちは。環境省アクティブレンジャーの半田です。
今年、みなさんは富士山に登りましたか? 富士山ではどんな自然に出逢えました? 御来光を拝めた人、大雨に祟られた人、でも富士山の自然はそれだけではありません。以前にも富士山で出逢った自然について書きましたが、興味深い富士山の自然の一端をご紹介したいと思います。
忍術! 木の葉隠れ!
左側の写真、吉田ルート六合目で撮ったものですが、これは葉っぱではありません。アケビコノハというチョウ目ヤガ科の昆虫です。翅を広げると後翅はオレンジ色に黒斑点が目を惹きますが、とまるときには葉っぱそっくりの前翅に折り畳まれ、擬態します。
富士山のような所になぜ? たまたま迷い込んだのでしょうか? しかし以前にも五合目付近でアケビコノハを見たことがあります。彼らは幼虫のときはアケビやムベ、ヒイラギナンテンなどの葉を食べますが、成虫になるとモモやブドウなどの果実を吸汁して果樹園農家さんを悩ませる一面もあります。山梨県が日本有数のフルーツ王国であることは何か関連しているのかも知れません。
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岩場に咲く淡い色の可憐な花
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開山前後の吉田ルート七合目の岩場で出逢いました。淡いピンク色のスズランのような可憐な花を付けますが、ツガザクラというツツジ科ツガザクラ属の常緑小低木で日本の固有種です。大いに心を癒やされました。
七色に輝く彩雲
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山頂のお鉢巡りを巡回中に出逢いました。うっすらとした雲が風にのって山頂を越えて私たちと太陽の間に雲のフィルターができると太陽の周りに七色のリングが現れました。富士山頂で見る彩雲は初めてです。
ヴィーナスベルトと反薄明光線
太陽が西の空に傾く時、東に面した吉田ルートの山小屋からは「影富士」を見ることができます。そして日没前の数分、太陽と反対の東の空に「ヴィーナスベルト」と呼ばれる美しいグラデーションとその下に太陽光の届かない「地球影」(すなわち夜の空の部分)が出現します。さらによく見ると富士山の山頂が太陽光を遮ることで生じた「反薄明光線」(裏御光とも言う) を確認できました。
稲光が生み出す光景
例年、梅雨明けから8月下旬頃まで、夏本番の気候となり、大気が不安定になることで夜でも雷雲が発生することがありますが、今夏は特に暑かったせいか、夜中にしばしば雷鳴が轟くことがありました。
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左側の写真は、吉田ルート八合目の山小屋から撮ったもの。左側の富士吉田市街の夜景と共に東京方面で発生している雷で、音は聞こえませんがピカピカと空が光っていました。また、右側の写真は夜中に富士山麓にある自宅のベランダから撮ったものですが、青白く光る稲光に富士山のシルエットが怪しく浮かび上がっています。実際、この翌日に巡回して山小屋に話を伺うと、雷の被害に遭った山小屋もあり、もしこんな夜に弾丸登山をしていたらと思うとゾっとします。
吉田大沢に架かる虹
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雨の後には虹が出る。雨上がりの吉田ルートを巡回中、吉田大沢に架かる虹を見ることができました。しかも、うっすらですが、ダブルリングになっています。美しい虹に励まされながら登って行きました。
タカネバラの実
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同じ場所を何度も巡視をしていると植物の変化を観察できるのが楽しみの一つです。これまでもフジハタザオやミヤマハンショウヅルなどの花と実の姿の違いをご紹介したことがありますが、今回はタカネバラ (高嶺薔薇)。お茶にも使われるローズヒップの実と同様、つやつやとした朱色の実を付けます。
重鎮との再会
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一昨年前に御庭で出逢ったカモシカとよく似た毛並みのニホンカモシカが吉田ルートの五合目、泉ヶ滝手前辺りに姿を現しました。同じ個体でしょうか? カモシカは倹約家で、貴重な高山植物を絶やさないように少しずつしか食さず、その分縄張りとして広いエリアを歩き回るので、御庭にいた個体が泉ヶ滝の近くに現れても不思議ではありません。同じ個体かは定かではありませんが、もしそうなら嬉しい限りです。
どうでしたか、富士山に登った方も、まだ登ったことがない方も興味を持っていただけたでしょうか?
最後にお願いがあります。
富士山の自然に関心を持って頂き、写真を撮るのはOKですが、植物を採ったり、いきものを獲ったりするのはNGです(自然公園法違反)。また、写真を撮るのに夢中になるあまり、ルートから外れたり、足元の植物を踏み荒らしたりしないようにしましょう。場所によっては、他の利用者の通行の妨げになる場合もあります。事故や危険を招くことがないよう、周りに気を配り、ゆとりをもって臨んでください。
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